今年6月、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights 以下UNGPs)は10周年を迎えます。2011年に、国連人権委員会(UN Human rights Commission)において満場一致で承認されたUNGPsは、企業が、人権尊重のために果たすべき責任を示す世界共通の基準となりました。

BSRは、企業が人権尊重の責務を果たすために、世界の様々な企業と協働しています。「より公正でサステナブルな世界の創造」というBSRの理念を実現する上で、UNGPsは極めて重要なものとなりました。

UNGPsを促進するための一環として、国連ビジネスと人権に関するワーキンググループ(UN Working Group on Business and Human Rights 以下UNWG)は、UNGPsの今後10カ年計画に対する提案を募集しています。この提案には、“UNGPsがより広範囲にわたり実践されるため、2030年に向けて意欲的なビジョンとロードマップの策定”を盛り込むことが求められています。

BSRの人権チームでは、人権課題に関して企業を支援した25年以上の経験と、2020年後半の40社以上に及ぶコンサルティング実績を踏まえた提案を提出し、UNGPsの過去10年間を振返り、主要な成功事例、ギャップ、課題、機会について考察しました。

UNGPsが、政府や市民社会のパートナーたちとの協力の元、企業の業種業態に関わらず、人権尊重のために共通のロードマップと目標を明確にするための共通言語の提示に成功したことは、広く賛同を得るところでしょう。さらに、UNGPsは、次の点においても成功を収めています。

  • 企業の人権尊重に対する公式なコミットメントを促進している。
  • ベンチマークと報告を通じて、人権パフォーマンスの透明性を高めている。
  • 人権侵害の防止、緩和、是正するために必要な内部的な仕組み(方針、手順、人員配置など)の構築を推進している。
  • ビジネスに対するリスクだけでなく、権利保有者に対する一連のリスクも考慮したうえで、リスクの対象範囲を拡大している。

BSRは、今後10年のUNGPsを検討するために、人権尊重の実現に向けて、最も有効な進展が達成可能な分野に焦点を当てることが必要と考えます。私たちは、そのために次の6つの分野に焦点をあてることを提案します。

デューデリジェンス

企業の人権方針を分析してみると、人権影響評価が一回限りのイベントとして実施されることが多く見受けられます。これでは、企業の部門横断的なリスクマネジメントに人権を組み込み、課題の特定と対応のための継続的なプロセスの一部とはなりません。

UNGPsの今後の10年間において、人権デューデリジェンスの有効性をより高めるには、将来志向かつ継続的な取組みを確実に行うこと、人権影響の特定、防止、緩和のために権利保有者とのエンゲージメントを進め、そして偏見や社会構造による問題にも目を向けることを推奨します。

救済措置へのアクセス

効果的な救済措置とは、被害を受けた権利者の視点による情報を把握し、被害と根本原因を適切に特定し、対応し、負の影響を適切に是正する必要があります。しかし、効果的な苦情処理メカニズムの確立や救済措置の策定における権利保有者による関与は限られており、救済措置に関する協力体制における国や企業の役割は不透明なままです。

UNWGとその他の企業や人権コミュニティは、有効性基準、救済の協力体制における多様な立場の人々の役割と責任、救済措置の実施についてのガイダンスを提供することで、救済措置へのアクセスを促進することができるでしょう。

サプライチェーン

UNGPsの目標を達成するには、サプライチェーンに、周知の課題が数多く残っています。第一に、多くの企業は、サプライチェーンの一次調達先より上流での人権影響を、十分に把握できていません。さらに、バリューチェーンの上流の大部分を占めている中小企業(SMEs)は、問題から完全に置き去りにされていることが多く、UNGPsを実践するための適切な支援、動機付け、資源が不足しています。

私たちは、企業が人権配慮の活動を広めるには、グローバルなサプライチェーンに属する人々とつながることが絶好の機会だと考えています。企業のサプライチェーンにおいて、川上での人権影響に対処するためには、革新的で優れたアプローチが求められています。これには、バリューチェーン全体での協働を促進し、企業の影響力をさらに有効に活用し、中小企業が今まで以上にUNGPsを活用することが必要です。

製品とサービス

バリューチェーンの川下においても、同様の課題が根強く残っています。販売後の製品やサービスに関する人権影響評価は、非常に限定的であり、影響力の行使や、リスク管理に対する効果的なアプローチへの認識も十分とはいえません。

私たちは、このように製品やサービスが及ぼす実際的または潜在的な人権影響への注目が高まるにつれ、この影響を防止、緩和、是正するための効果的なアプローチを開発する必要があると考えています。製品の影響は、業種によって異なります。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の「B-Tech」プロジェクトは、UNGPsを業界特有の取組みへと解釈するうえで、有効な事例となります。

結果と影響

人権に関する負の影響の防止に必要な情報に関して、関連指標の定義やデータの収集にはいくつもの課題があり、特定のアプローチの有効性を評価、比較することが難しいため、企業の人権活動の促進を阻んできた面があります。

次の10年を鑑みると、企業に必要なことは、結果と影響について共通の視点を持つことだといえます。パフォーマンスを測定し、説明責任を果たすため、意義のあるプロセスと結果を示す指標を明確にする必要もあります。財務部門は、パフォーマンスの測定基準の開発に重要な役割を果たすことが可能であり、実現の暁には、人権パフォーマンスが投資の意思決定へ融合する動きがさら加速することでしょう。

国家の役割

人権に関する更なる法制化の潮流の一方で、世界の多くの国では人権保護に対する政府の対応に限界があり、UNGPsを実行する上での最も大きな障害となっています。特に、紛争や汚職、脆弱な統治又は略奪的な独裁体制の国家の下では、貧困、不平等、脆弱な法体系などの社会的課題に対する政府の対応が不十分であり、企業活動が負の人権影響を引き起こすリスク、加担するリスク、又は取引関係を通じて侵害を助長するリスクを、一層高めることになります。

包摂的な経済成長、天然資源の責任ある管理、そして脆弱な人々への配慮などを通じて、人権が育まれる環境づくりを促進するために、企業は重要な役割を担っています。しかし、国家が不在の状況では、多くの企業が積極的な行動をとることを躊躇しています。

この事態に対処するために、企業には、進展する環境情報開示や他のデューデリジェンスの要求と同様に、各国の法的要件をUNGPsと調和させていくことを政府に提唱することが期待されます。さらに、複雑な社会課題を解決し、構造的な障壁に対処し、単独の企業の影響を超えて、企業活動が及ぼす人権影響を提言するために、市民社会や政府と連携を図ることができる協調的アプローチが重要な鍵となります。

結論

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業の人権活動分野において、画期的な文書となりました。これまでの10年間、指導原則は、BSRがより公正で持続可能な世界を創造するための支援を行ううえで、根幹を成すものでした。

私たちは、企業やパートナーの皆様との協働によりUNGPsの約束を達成し、人権が尊重され保護されることを確実なものとしてゆくことであろう、今後10年間について希望を抱いています。さらに、上記の提案に目を向けることにより、一層、実現に向けて効果的なものとなると信じています。

BSRは、BSRの人権ワーキンググループのメンバーや、経験や見識を共有してくださった各企業をはじめ、「UNGPsの今後10年に関するコンサルテーション」にご参加くださった40社以上の企業の皆様にお礼を申し上げます。BSRの人権関連業務については、私たち人権チームにお気軽にお尋ねください。