2021年4月21日に欧州委員会はコーポレート・サステナビリティ報告指令(以下、CSRD)を承認しました。これは2018年から施行されている非財務情報開示指令(NFRD)の改正法となります。本稿ではCSRDの主な特徴と企業への影響について解説します。

欧州における非財務情報の開示制度

2018年から施行されきたNFRDは、欧州会社法に基づく年次報告書中のマネジメント・レポートにおいて、環境・社会課題への企業の方針、取り組み、パフォーマンスについて、ステークホルダーが必要とする情報の開示を求めるものです。2020年初頭に行われた実態調査では、非財務情報を開示する企業数は増加しているものの、現行法に基づくレポーティングの内容は不十分であることが指摘されました。こうした状況を踏まえ、2020年よりNFRDの改正の論点として、規制の厳格化、レポーティング基準の明確化、報告書の検証等が議論されてきました。

CSRDの特徴:財務影響とサステナビリティへの影響の「ダブル・マテリアリティ」

CSRDの目的は、投資家及び他のステークホルダーが必要とするサステナビリティ情報について、信頼性と比較可能性のあるレポーティングを促進することとされています。サステナビリティ情報の利用者はNFRDと同様で、財務面の影響に関心のあるステークホルダーだけでなく、幅広いステークホルダーが対象となります。年次報告書のマネジメント・レポートにおいて、企業がサステナビリティに及ぼす影響と、サステナビリティ課題による企業への影響の両面、つまりダブル・マテリアリティの観点での情報開示が求められており、この点がEUの開示制度の最大の特徴といえるでしょう。

一方で、現在、国際会計基準財団(IFRS Foundation)において検討されているサステナビリティ報告に関する国際基準は、投資家や金融機関の意思決定においてマテリアルな情報にフォーカスするという方向性が示されていることから、EUとIFRSは異なるアプローチであると整理することができます。但し、気候リスクが財務リスクにつながるという認識が急速に広まったように、サステナビリティ課題の財務面への影響はダイナミックに変化していることをよく理解する必要があります。CSRDで扱われるサステナビリティ課題は、財務・サステナビリティのいずれの観点でも潜在的な影響をもち、考慮に値するといえます。

サステナビリティ報告基準

NFRDにおいて、環境・社会関連情報開示を促進させるためのガイドライン、気候関連情報開示のためのガイドラインが発行されてきましたが、いずれも任意の基準であり、企業が開示すべき指標は明確ではありませんでした。CSRDでは、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG:European Financial Reporting Advisory Group)が策定予定のサステナブル・レポーティング基準が施行基準として位置づけられることで、情報開示の質が高まることが期待されています。2021年3月に欧州委員会が発表したサステナビリティ報告基準の方向性では、「環境」、「社会」、「ガバナンス+」の3分野における開示トピックがリスト化されています。これらのトピックに関する方針、取り組み、目標と進捗について年次報告書のマネジメント・レポートにける報告が求められることになります。特に、今回の改訂で注目すべき点は、主な負の影響(Principle Adverse Impact:PAI)に関する報告義務です。企業はPAIについてデュー・デリジェンスを実施した結果とその負の影響を緩和するための方策について開示することが求められています。

EUタクソノミー法との関連

CSRDにおける開示内容でもう一つ注目すべき点は、2020年に制定されたEUタクソノミー法に基づく開示です。EUタクソノミー法とは、気候、資源循環、生態系保全、汚染防止等の環境貢献があり、他に著しい環境負荷を及ぼさず、人権や腐敗防止の観点からも国際基準に適合するという条件を満たす経済活動の基準を定めたものです。タクソノミー法第8条ではCSRD(旧NFRD)の対象企業に対し、タクソノミーに整合する経済活動の割合を開示することを求めています。この経済活動の割合を元に、投資家はタクソノミー整合のエクスポージャー比率を開示する(2021年3月施行の金融機関サステナビリティ情報開示規則(SFDR)に基づく)他、銀行はグリーン資産比率の開示に活用する(資本要件規則(CRR)に基づく開示指標として欧州銀行監督局が提案)ことが見込まれています。企業からのタクソノミー整合の経済活動比率の情報開示と金融機関における投融資先のタクソノミー整合比率の情報開示が進むことで、EUタクソノミー法の実効性が高まるのです。CSRDにおけるタクソノミー整合に関する具体的な指標は、今後委任法にて定められる予定です。

対象企業の拡大

NFRDの対象企業は、EUにおいて従業員数が500人以上の上場企業又は従業員数500人以上の金融機関でしたが、CSRDでは従業員数が500人以上の企業又は上場企業が対象となり、対象企業数は約1万社から5万社近くに拡大します。このため、欧州域外に本社を置く企業でも、今回の改正によって新たに適用対象となるケースが多くなると見込まれます。今回の改訂では、レベル・プレイング・フィールド、つまりEUにおける規制強化によってEU企業がEU域外の企業との競争上不利にならないように配慮された結果、適用範囲の拡大に至りました。

今後のスケジュール

CSRDの施行基準にあたるサステナビリティ・レポーティング基準は、2022年中頃のドラフト発表が予定されています。この基準が順調に承認された場合、早ければ2022年中にCSRDが施行され、2023年中の活動実績を2024年の年次報告書において公表することが求められることになります。EUではサステナビリティ情報への容易なアクセスと比較可能性の向上のためポータルサイト、シングル・アクセス・ポイントの検討も行われています。CSRDの対象となる企業では、タクソノミー整合の経済活動の割合や主な負の影響(PAI)に関するデュー・デリジェンスなど、これまでのサステナビリティに関するレポーティングではカバーされていない事項への対応が求められることから、現在策定中の報告基準の動向を注視し、計画的な取り組みが求められます。