世界的なパンデミック、気候変動の影響の加速化、そして世界的な民主主義の衰退と、2020年は様々なストレスと苦悩をもたらしました。

その一方で、人権の分野では、人権デューデリジェンス義務化の推進という前向きな進展もありました。特に、EUの人権デューデリジェンス義務化法案は、EU全域で人権デューデリジェンスを義務付ける最初の試みであり、自主的な原則である国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき国家の役割とされてきた人権尊重の考え方からの、大きな進展といえます。地域または世界レベルで人権デューデリジェンスの必須要件を確立することにより、人権デューデリジェンスの方法論とアプローチがより改善され、ビジネスにおける人権への影響が見える化されることが期待できます。さらに、これらの人権影響への対応と救済措置の提供に向けて、民間セクターにおける協力と協働がより一層推し進めるられるでしょう。

2021年前半の制定が期待されているEUの人権デューデリジェンス義務化法案では、EUで事業活動を行う企業が、自社の事業活動とバリューチェーンにおける人権と環境への悪影響を、EU外で発生する影響も含めて特定し、防止し、低減することが求められます。既に、多国籍企業はこうした前向きな試みを歓迎し市民社会組織もまた、人権がより尊重・保護されるために必要であるとして、法案への支持を表明しています。

現在の状況

過去10年間に、世界中で非常に多くのデューデリジェンス義務化とレポーティングの規制要求が進みました。これらをいくつかの大きなカテゴリーに分けると以下のようになります。

2010年代前半に普及した、個別課題の規制または情報開示のみの規制から、人権デューデリジェンス義務化への進化は歓迎すべきものです。現代奴隷法や紛争鉱物規則などの法律は、国際的な規模でのビジネス・コミュニティの意識を高めることになりましたが、人権課題が多岐に及ぶ中で、個別課題を対象としたデューデリジェンスと情報開示の制度のみでは、十分な効果が得られない恐れがあるからです。

一方、EUの法案のような、より広範な人権のデューデリジェンス義務化への移行には、大きな期待が寄せられています。例えば、公平な競争条件、法的な実効性の向上と調和、企業活動における人権尊重の推進、影響を受けた権利保有者の救済、および第三者への影響力の向上が期待されます。そのような要求が地域的または国際的な規模で統合され、個別課題の開示要求に取って代わることができれば、企業は包括的な人権デューデリジェンス手法の開発により多くの時間を費やすことができ、結果として権利保有者の救済と問題の改善につながるでしょう。

人権デューデリジェンス義務化:前向きな進展

EUの人権デューデリジェンス義務化法案の最終化に至るまでには、具体的な要求事項について多くの未確定要素がありますが、このアプローチは、次の理由から現状を大幅に改善すると考えられます。

  1. 人権影響の防止の推進 人権リスクを特定し、軽減し、救済するという注意義務の原則に企業が従うことで、UNGPの目的をより影響力のある方法で達成することが期待されます。つまり、企業のバリューチェーンにおける権利保有者および脆弱性の高い人々の人権リスクの低減と人権影響への救済が進むと考えられます。
  2. 公平な競争条件と法制度の調和の推進 EUの人権デューデリジェンス義務化法案の適用範囲はまだ確定していませんが、地域レベルまたは国際的な法的要求事項が明確になれば、既存の課題別の情報開示とデリジェンスの要件と比べ、より法的に実効性があり、調和のとれた、明確かつ一貫性のある民間セクターへの要求事項を示すことにつながります。
  3. 明確な法的責務の形成 責任の詳細はまだ確定していませんが、今後、人権デューデリジェンスの実施方法と、救済措置に関する企業の責務に関する注意義務が明確に示されることが予想されます。
  4. 包括的なアプローチの奨励 人権侵害の背景には構造的な問題があり、それらに対処するためには体系的なアプローチをとることが必要です。すべての企業にバリューチェーン全体で人権デューデリジェンスの実施を要求し、企業が連携してリスクに取り組むことができれば、人権に関する構造的な問題にも取り組むことができます。

EUの人権デューデリジェンス法案の詳細の多くはまだ確定していません。どのような法人が対象となるか、被害者救済に対して何が求められるか、どのような責任及び罰則となるかを含め、人権デューデリジェンスのプログラムの範囲に関して未確定の内容が残っています。それでも、提案された法案は、企業の人権デューデリジェンスのプログラムの影響力と実行性を高めることになると私たちは信じています。